読書記録

奥富敬之「吾妻鏡の謎」吉川弘文館

鎌倉ものを読みたいと思って手に取った。 鎌倉幕府の準公式的な歴史書の吾妻鏡について、その記載内容と他を比較していく形で、それでいながら全体の流れを掴むこともできる。 知ってることも多かったが、鎌倉幕府を頼朝を頭に据えた「東国武士たちによる一…

魚川祐司「仏教思想のゼロポイント―「悟り」とは何か―」(新潮社)

中村元氏のものはちょこちょこ読んでて、でもそこからとくにアップデートできてなかったなと思って手を出した著作。 信仰としての仏教を最初にドーンと出して、それを丹念に説明していく。 理解できたかというとなかなか難しい(身についてないという点で)…

高山文彦「生き抜け、その日のために 長崎の被差別部落とキリシタン」(解放出版社)

主として、長崎の浦上の被差別部落とその出身者の話。主たる視点は被差別部出身者によるものだが、浦上における原爆被害と被差別部落とキリシタン部落が複層的に描かれており、長崎の現実的な理解を深めることができた。 中盤から後半にかけては、消滅した(…

吉村昭「冬の鷹」(新潮文庫)

解体新書の訳者、前野良沢が主人公の歴史小説。 学者たちが登場人物のため、武張ったりアクションだったりはまったくないが、読んでいてとても興奮を覚えた。 知的好奇心の深め方や学究の徒の心のうちなどを細やかに描いている。これは400ページあるが、AKB4…

福田千鶴「後藤又兵衛 大坂の陣で散った戦国武将」(中公新書)

大河ドラマの真田丸を楽しんでいる。また、後藤又兵衛自体にも興味があり、本書を手に取った次第。 後藤又兵衛という人物自体は、その本来の性格や気性をたどるのは難しいらしい。本書ではその周りの状況を追うことで、後藤又兵衛という人物に迫っている。の…

シュロモ・ヴェネツィア著『私はガス室の「特殊任務」をしていた』(河出書房新社)

映画「サウルの息子」を見て、関連書として興味があったので読んだ。 映画の中ではゾンダーコマンダーと呼ばれたアウシュビッツ内で「特殊任務」をしていた人の証言記録。「特殊任務」としては、ガス室に送られる人々の誘導やその後処理について。そしてアウ…

北尾トロ「猟師になりたい」(信濃毎日新聞社)

読了。とても読みやすい。 現代の猟師というものが、こちらがわからあちらがわに行く著者によって、一歩一歩ていねいに綴られている。この本の中では著者は自分ではまだ得物を獲っていないが、少しずつ猟師になっていく。その様子を読者である自分もたどって…

四日市康博 編著「モノから見た海域アジア史」(九州大学出版会)

碇石や墨蹟やコンテナ陶磁など、普段は気にもとめないようなものからアジア交流の歴史に迫っていく観点が面白い。そしてそれが歴史を研究するおもしろさなんだろうなあと思わされる。教科書に結論だけが書かれる「歴史」ではなく、真実に迫るための歴史を見…

中島岳志「血盟団事件」(文藝春秋)

読了

吉村昭「彰義隊」(朝日新聞出版)

吉村昭の歴史小説に手を出そうと考えて、読みやすそうな本書を手に取った。彰義隊にかかわる話かと思ったが、主役は輪王寺宮能久親王。皇族でありながら上野の山の主でもあり、明治新政府に対する欧州列藩同盟の盟主となった人物。徳川慶喜の助命嘆願から台…

安丸良夫「神々の明治維新 -神仏分離と廃仏毀釈-」(岩波新書 黄版)

神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)作者: 安丸良夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1979/11/20メディア: 新書購入: 9人 クリック: 56回この商品を含むブログ (31件) を見るとても良かった。安満利麿「日本人はなぜ無宗教なのか」で欠…

藤田達生「秀吉と海賊大名 - 海から見た戦国終焉」(中公新書)

前回読んだ北島万次「秀吉の朝鮮侵略と民衆」(岩波新書)で、来島通総の死に様から戦国期の日本の海賊に興味が出たので手に取った1冊。 瀬戸内の海賊組織とそれを取り巻く状態、歴史を流れに沿って説明。とくに、歴史的な流れの説明が強い。 村上一族および当…

高田里惠子「学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常 」(中公新書)

本の概略としては、あとがきにある文章に短くまとめられている。 本書は、大日本帝国の軍隊(とりわけ陸軍)と旧制高等学校を主な部隊としている。しかし、それらの歴史や制度を祖述したり、独自の知見を提供したりするものではない。軍隊と旧制高校の両方を体…

北島万次「秀吉の朝鮮侵略と民衆」(岩波新書)

朝鮮侵略についてはいまひとつ全体像が見えにくく思っていたが、この本では簡略にわかりやすくまとめられていたので、認識が深まった。1章と2章で概略、3章と4章で李舜臣とその周りのこと、5章で日本軍に従軍した民衆について述べられている。全体を通して、…

小島藤子 週刊文春12月6日号 原色美女図鑑

小島藤子さんの写真が載っていると言うことで、文春を立ち読み。とても心ひかれる写真でしたので、久しぶりに文春を購入しました。 撮影は長野陽一。5ページ4枚。衣装は3タイプ。 秋から冬の装いが良いし、なにより小島藤子さんの四様の表情がステキです。以…

菊池俊彦「オホーツクの古代史」(平凡社)

オホーツク文化と呼ばれる、北海東北部・サハリン・千島列島の古代文化について、学術的な成果を時代順に追っていく構成。最終的には、トカレフ文化や古コリャーク文化やタリヤ文化などを含めた環オホーツク海としての考察まで。 基本的に学術成果を時系列で…

加藤九祚「中央アジア歴史群像」(岩波新書)

これ、物語としても面白かったです。取り上げられている地域はイラン・ソグディアナ・カザフ・アフガニスタンと広く、時期もアレクサンドロス東征時代からロシアの南下の19世紀まで。各時代の人物を紹介することで、その時代の空気もしっかり描写されていま…

岡谷公二「原始の神社をもとめて 日本・琉球・済州島」平凡社新書

本のはじめの方は済州島の堂をめぐるお話し。そして韓国の多島海の堂。日本の神社、沖縄の御嶽と、その関連を述べる。初めの描写は探検隊のそれで面白く、中盤以降はそれぞれの発達や関連を説明。最終的に、済州島・九州・沖縄をつなぐ帯を提唱。 全体的に興…

小和田哲男「歴史ドラマと時代考証」中経の文庫

大河ドラマの時代考証を担当した方が、その体験を含めて歴史を説明。話は色々なところに飛んでいて、話題も豊富なので、話のタネになる感じ。さっと読めて、面白かった。歴史ドラマと時代考証 (中経の文庫)作者: 小和田哲男出版社/メーカー: 中経出版発売日:…

末木文美士「日本宗教史」岩波新書

古代から現在までの日本の宗教を説明。大まかな流れだが、一本の筋が通っている。特に「精神の<古層>」という手がかりが興味深い。これを端緒に、他の参考文献にまで手を伸ばすと良い感じになるだろう。阿満利麿「日本人はなぜ無宗教なのか」や村上重良「…

村上重良「天皇制国家と宗教」(講談社学術文庫)

明治維新から敗戦までの、日本の宗教を詳述。維新後の宗教だけでなく、政治史を見るためにも、これは必読の書。歴史を知るためにも、また戦後も綿々と続く日本の現状を把握するためにも、押さえておきたい一冊。 まだ全て理解したわけではない。何度も読んで…

青木和夫「古代豪族」(講談社学術文庫)

面白い! 取り扱う時代は広く、国造から将門まで。国造、郡領、土豪と言う分類。きちんと「豪族」の定義から始め、丁寧に各時代を追っている。主に地方の有力者たちを取り上げている点が白眉。地方と中央の関係性なども面白かったが、一番は各個人を個別に取…

井上靖「天平の甍」(新潮文庫)

井上靖の歴史物。今自分の中で古墳時代〜平安初期ぐらいが興味があって、その延長での読書。色んな人物を人として肉付けして見られるのが小説の強みで、その時代の雰囲気とともに大変楽しく読むことが出来た。唐土の描写もあるしね。ストーリーとしてはちょ…

繁田信一「殴り合う貴族たち 平安朝裏源氏物語」柏書房

源氏物語の主役光源氏のモデルともされる平安期の高級貴族たち。その彼らの、高校の古典教科書を読んでも出てこない「暴力」に関係するエピソードの数々。それを、賢人右府とも呼ばれ、当時賢明な人として認められていた小野宮右大臣藤原実資の日記「小右記…

丸山裕美子「正倉院文書の世界 よみがえる天平の時代」 中公新書

奈良時代を、豊富な正倉院文書とエピソードで紹介。これはとても面白かった。正倉院におさめられているものの紹介から、当時の社会や制度・たべものなど幅広く取り上げている。また、取り上げられている人も、果ては天皇皇后から木っ端役人や下々の僧まで。…

阿満利麿「仏教と日本人」 ちくま新書

筆者の本は「親鸞・普遍への道」や「日本人はなぜ無宗教なのか」「宗教は国家を超えられるか」を既に読んでいる。 本作では日本人の心の底流にある自然宗教への考察と、そこから一歩進んで仏教などの創唱宗教をどのように受け入れて、日本独特のものとなった…

瀧浪貞子「女性天皇」 集英社新書

推古から孝謙までの女性天皇とその背後を説明。人物的にはそれほど掘り下げられていないが、その時代の女性天皇というものを冷静な視点で見ている。筆者の持つ古代の女性天皇像も妥当で納得性が高い。しかしそれ以上に時代の要請と個々の個性によって変わっ…

中村元 三枝充悳「バウッダ[佛教]」 講談社学術文庫

初期仏教から大乗仏教そして密教と、その思想体系を段階段階で冷静な目で見ている。これを読んで思想としての仏典にも興味が出てきた。先日読んだ中公文庫の井筒俊彦「イスラーム思想史 何がコーランの思想を生み出したのか」と併せて読むととてもいい。人間…

講談社 日本の歴史05 坂上康俊「律令国家の転換と『日本』」

奈良時代末から平安時代前期を取り扱う。桓武以降が取り扱われるが、人物はそれほど興味深くは描かれていない。出色は社会変化の描写。国際情勢を背後に成り立った律令国家と、その後の安定による社会自体のズレがとても良くまとめられている。特に官僚機構…

講談社 日本の歴史04 渡辺晃宏「平城京と木簡の時代」

天武から聖武そして称徳まで。日本が律令国家として歩み出し、「天皇」が生まれ確固たる足場を築いた時代のお話し。個別エピソードは少ないが、男も女の個性的で実に面白い。当時の国際情勢から足元まで、色々想像が膨らむ。中公新書の丸山裕美子「正倉院文…