北野勇作「社員たち」(河出書房新社)

日常SF作家として有名で、ぼくが大好きな北野勇作氏の著作
自分が特に好きなのは「昔、火星のあった場所」と「クラゲの海に浮かぶ舟」なんだけど、本作はその両者に似たところがあってとても好きになった。
ぼくも社会人になって久しいので、こういう社員としての日常生活に異質なものが入り込んで、それでも日常が続いていく的な作品がとても面白く感じる。
本作は短編集の形を取っている。一部作品ではちょっとグロかったりもするけれど、それも含めてエンターテイメントとしての北野勇作の魅力だと思える。
一番好きなのは「妻の誕生」。妻が突然「生まれ変わる」と言い出す日常と、巨大な卵になった妻をそのままに日常生活を送ったり愛おしんで卵を抱えたりするところとか、生まれ変わった妻が前と少しも変わったところが見えないってところとか、すごく大好き。
「家族の肖像」も好き。ちょっとディックみたいな感じがするのと、ヤモリ男たちの暗さがいい。「味噌樽の中のカブトムシ」はSFっぽさがいい。「南の島のハッピーエンド」には、「クラゲの海に浮かぶ舟」にも似た諦観があって好きだ。
短編なのでするっと読める。でも読んだあとには、心の奥にちょろっとひっかかったり粘ついたりするものが残る。これぞ北野勇作って感じ。久々にその間食を堪能できた。やっぱり北野勇作の作品は最高だ。
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