吉村昭「冬の鷹」(新潮文庫)


解体新書の訳者、前野良沢が主人公の歴史小説
学者たちが登場人物のため、武張ったりアクションだったりはまったくないが、読んでいてとても興奮を覚えた。
知的好奇心の深め方や学究の徒の心のうちなどを細やかに描いている。これは400ページあるが、AKB48の握手会の合間に一気に読み終えた。
ハイライトはやはり「解体新書」を一語一語訳出するところ。杉田玄白らと手探り手探りでひとつずつ進めていく様子が素晴らしい。
登場人物の性格付けも上手く切り分けられている。小説での役割に沿いつつ、歴史的な見方も緻密で妥当なのだろう。
杉田玄白も魅力的だし、それ以上に「前野良沢カッコいい!」となる。前野良沢はかなり面倒くさげな性格に描かれているのだが、それを杉田玄白などの他のキャラクターたちが逐一指摘し、それでもそれ以上に魅力的に見えてくるのがよい。
描かれるのは前野良沢の一生であるため、後年の杉田玄白との差異で描くというのは妥当に思える。が、高山彦九郎との関係は、それまで描いていた前野良沢という人物とは今ひとつかみ合ってなくて、これはこれで別物語りとして見てみたいと思った(一方、ちょっと本物語では蛇足感が否めなかった)
最近、吉村昭の著作を読むことが多いのだが、どれも素晴らしいな。もっと読みたい。