高山文彦「生き抜け、その日のために 長崎の被差別部落とキリシタン」(解放出版社)

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主として、長崎の浦上の被差別部落とその出身者の話。主たる視点は被差別部出身者によるものだが、浦上における原爆被害と被差別部落キリシタン部落が複層的に描かれており、長崎の現実的な理解を深めることができた。
中盤から後半にかけては、消滅した(とみられた)長崎の部落問題の発掘とその運動について述べられる。ここでも困難な現実に立ち向かっていく主人公たちの姿と苦悩がまじまじと描かれていて良い。
また、取材は綿密に行われており、その信憑性はかなり高いように思われた。
残念と言えば、本作品が小説とドキュメンタリのどっちつかずであること。変に小説っぽく描かれているが、登場人物の再構成がうまくできていない。なかでも主たる主人公である磯本恒信は、外から見た姿が主として描かれてしまっている。これは綿密な取材に誠実であろうとしてそうなったのかもしれないが、中途半端な人物描写のために戸惑うことが多かった。磯本恒信よりも他の登場人物たちのほうがハッキリした人間像を描いているのは、著者が直接取材を行った人物たちだから仕方ないのだろうが、これでは小説ではないかなとも思う。また、取材したかれらの視点と著者の視点とが、主語を明示されることなく入れ混ぜに表現されているので、これは誰の視点でどの位置から見てるのだろうと思うことが仕切りであった。
そういう問題点はあるものの、「浦上における原爆被害と被差別部落キリシタン部落が複層的に描かれて」いるというのは他に代えがたい独自のものである。また、登場人物たちの証言によって描き出される当時の情景もとてもリアルである。そういう意味でも、必読の書だと思う。