高田里惠子「学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常 」(中公新書)

本の概略としては、あとがきにある文章に短くまとめられている。

本書は、大日本帝国の軍隊(とりわけ陸軍)と旧制高等学校を主な部隊としている。しかし、それらの歴史や制度を祖述したり、独自の知見を提供したりするものではない。軍隊と旧制高校の両方を体験した男性たちの、その両方を巡る言説を考察の対象にしている

今日の一種画一的な社会とは違う、戦前戦中の様子を見ることが出来る。そこは階級社会であり、現在そのままの理解では見誤る社会が存在する。戦中の様子を書かれたものを読むときにふと忘れてしまう前提条件のようなものをしっかりとあぶり出しているのが特徴的。この本を読むことで、当時に関して書かれたものを読む際にそこに重層的に横たわるものを意識することが出来るようになると思われる。
述べられているものは多い。手に取る度に、新たな発見もあるだろう。ちなみに、圧倒的多数であった民衆については、この著作ではほぼ述べられていないので注意。ただ、そこには階層が見えるので、その存在と位置を認識をすることは可能だ。
上記以外では、個人的には、旧制高校の雰囲気が今にのこる残滓について私的な体験から思い出したり、現在の巷で言われる教育改革と鈴木庫三という戦前の教育改革者とその頃の社会について考えたりした。
また、今も昔も社会が重層的であるということについて、いつも慎重に見るべきであると認識をあらたにした。そしてその認識は、忘れがちであるが故に、いつまでも持ち続けていかなければならないとも思った。
あと、日本軍の将校にとってその地位が腰掛けであったようなことが書かれてあり、そのことと戦中の作戦・実行の関係について(日本軍の"兵は優秀だが将校は無能"論と)の関わりについて、考えたりもした。