高山文彦「生き抜け、その日のために 長崎の被差別部落とキリシタン」(解放出版社)

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主として、長崎の浦上の被差別部落とその出身者の話。主たる視点は被差別部出身者によるものだが、浦上における原爆被害と被差別部落キリシタン部落が複層的に描かれており、長崎の現実的な理解を深めることができた。
中盤から後半にかけては、消滅した(とみられた)長崎の部落問題の発掘とその運動について述べられる。ここでも困難な現実に立ち向かっていく主人公たちの姿と苦悩がまじまじと描かれていて良い。
また、取材は綿密に行われており、その信憑性はかなり高いように思われた。
残念と言えば、本作品が小説とドキュメンタリのどっちつかずであること。変に小説っぽく描かれているが、登場人物の再構成がうまくできていない。なかでも主たる主人公である磯本恒信は、外から見た姿が主として描かれてしまっている。これは綿密な取材に誠実であろうとしてそうなったのかもしれないが、中途半端な人物描写のために戸惑うことが多かった。磯本恒信よりも他の登場人物たちのほうがハッキリした人間像を描いているのは、著者が直接取材を行った人物たちだから仕方ないのだろうが、これでは小説ではないかなとも思う。また、取材したかれらの視点と著者の視点とが、主語を明示されることなく入れ混ぜに表現されているので、これは誰の視点でどの位置から見てるのだろうと思うことが仕切りであった。
そういう問題点はあるものの、「浦上における原爆被害と被差別部落キリシタン部落が複層的に描かれて」いるというのは他に代えがたい独自のものである。また、登場人物たちの証言によって描き出される当時の情景もとてもリアルである。そういう意味でも、必読の書だと思う。

吉村昭「冬の鷹」(新潮文庫)


解体新書の訳者、前野良沢が主人公の歴史小説
学者たちが登場人物のため、武張ったりアクションだったりはまったくないが、読んでいてとても興奮を覚えた。
知的好奇心の深め方や学究の徒の心のうちなどを細やかに描いている。これは400ページあるが、AKB48の握手会の合間に一気に読み終えた。
ハイライトはやはり「解体新書」を一語一語訳出するところ。杉田玄白らと手探り手探りでひとつずつ進めていく様子が素晴らしい。
登場人物の性格付けも上手く切り分けられている。小説での役割に沿いつつ、歴史的な見方も緻密で妥当なのだろう。
杉田玄白も魅力的だし、それ以上に「前野良沢カッコいい!」となる。前野良沢はかなり面倒くさげな性格に描かれているのだが、それを杉田玄白などの他のキャラクターたちが逐一指摘し、それでもそれ以上に魅力的に見えてくるのがよい。
描かれるのは前野良沢の一生であるため、後年の杉田玄白との差異で描くというのは妥当に思える。が、高山彦九郎との関係は、それまで描いていた前野良沢という人物とは今ひとつかみ合ってなくて、これはこれで別物語りとして見てみたいと思った(一方、ちょっと本物語では蛇足感が否めなかった)
最近、吉村昭の著作を読むことが多いのだが、どれも素晴らしいな。もっと読みたい。