母方の祖父母が朝鮮からの引揚げ者だ。朝鮮でうどん屋のチェーン店のようなものを開き、それなりに成功したらしい。敗戦とともに引揚げ、故郷福岡に戻った。引揚げの時は「ソ連が来る」ということで、何も持たず、着の身着のまま列車に乗り込んだそうだ。全財産はそこですべて失ったという。戦後は無一文からの出発となり、しかも祖父が戦後早くに亡くなったため、祖母は塗炭の苦しみを味わいながら女手一つで三人の子供を育て上げた。祖母は、もともとはちょっとしたお嬢様で、それまで家事も何もしたことのないヒトだったのだが、実家の凋落も激しく、結局あてに出来る人など居ないに等しい中での子育てだったという。あまりに生活が苦しかったので、母には口減らしのための養子の話もあったらしい。やがて一番上の兄が自衛隊に入ることで、ようやく生活に安定が来たという。それでもずっと苦しい生活だったそうだ。
あの時代を生きた人にはそれぞれの歴史がある。それこそ、一人一人の物語がある。若い頃の自分は、家族というものの歴史を軽んじたこともあった。しかしこうしてあらためてその人生の流れを追ってみると、そして自分のそれと比べてみると、その落差に愕然とし、ただただ尊敬の念しか浮かばない。それは戦争という時代を経なかった父母にも同じだ。小さい頃は家族を尊敬できると言う友達に偽善を感じたものだが、今では家族こそが最も尊敬できると胸を張って言える。
しかし、家族は自らの歴史に無自覚であり、かつそれほど雄弁にものを語らない。その経験を、ぽつぽつと、それも断片的にしか話さない。その歴史があまりに辛く、思い出したくない部分が多々あるのだろう。凄惨な戦場を体験した祖父は近しいものにすら結局何も語らないまま逝ってしまった。
時代の流転の前では一個人はただ流されるままに、吹けば飛ばされるように、翻弄される。しかし人間はしぶとく時代にしがみつき、必死に生き抜く。人に歴史有り。しかしその多くは史には乗らず、体験事だけに語られることも少ない。口伝で伝えられることもわずかな家族の歴史。
スペシャルドラマ「海峡」
NHKドラマにて朝鮮引揚げをテーマにしたドラマだそうだ。テーマがテーマだけに見ずには居れなかった。母親のヒトにも思わず「こういうドラマが放送されるよ」と伝えたほどだ。全三回で、本日が第一回目の放送、ジェームス三木脚本ということで考証等細かい部分が心配だったが、力の入り具合を見ると面白いドラマのような気がして、今日の放送を楽しみにしていた。感想としては、なかなか面白かったというところ。本日は津川さんの演技に引き込まれた。引揚げの状況に関しても、さりげなく説明が入り、わりとわかりやすかったように思う。主役も長谷川さんも魅力的なので、是非なく次回も見てみようと思う。