ラジオ聴取記録(東京03の好きにさせるかッ、高橋源一郎の飛ぶ教室、金子みすゞの宇宙、文豪たちが書いた関東大震災)

  • 東京03の好きにさせるかッ 2023/10/19 放送 ミキ ダウ90000

この番組でミキが出るのが6回目ということで、定例シリーズ化してる。ただ、1回目・2回目は本当に奇跡的な面白さだったけれど、そこから3~5回目はただ惰性でやってる感があり、正直もう飽きたなという気持ちがあり、今回のゲストが紹介されたところで「ええ、またやんの?」とうんざりした気分になったのは正直なところ。ただ、今回はムチャクチャ面白かった!ウォーキング中に聞いたのだが、人で賑わう街なかで、ニヤニヤが止まらなかったし、何度も吹き出してしまって、私は街なかでただの不審人物に成り下がっていた。でもムチャクチャ面白かった。ミキ昴生が作ってきたコントが丸々新喜劇っていうのが効いてて、そのコントも、その後の周りからのツッコミも神がかっていた。これは1回目・2回目を超えてきたかもしれん(これまでの積み重ねがあってこそで、これ単体だとそこまでではないけれども) 惰性と思っていたもので、そこから盛り返すことがあるもんだと感心しきりだった。でもこれ、今後は厳しいだろうなあ。

米原万里著『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を取り上げていた。確かに今の観点で見るとまた違った目線で見ることができるし、彼女たちとその子供たちの今がどうなっているかというのも気になる。世界は変わらない変わらないとも言われるが、実際は数十年でガラッと変わってしまうものだとも思った。先日取り上げられた「近代文学に描かれた男と女」について、そう評論した斎藤美奈子高橋源一郎との対話も、いろんな観点が出てきた面白かった。

作家としての歴史が刻まれた家の話。面白いな。辺見庸著「もの食う人びと」を取り上げているのは今回のゲストの石井裕也が好きな作家で、映画の原作だからかな。前回の、数十年で変わる世界の様子からすれば辺見庸が書いた頃からもかなり変わってる国も多いんだろうな。石井裕也辺見庸の文章を評して「詩的な感じがありつつ、言葉に暴力を帯びて強い」ってのは面白い。石井裕也を迎えてのトーク。子供に一人称をどう呼ばせるかというのに石井裕也が気にしてるのが「呼ばせることができるのか」って意味で興味深い。最新映画「月」が原作と相当違う件についての話。原作との違いを高橋源一郎が説明してて、わかりやすかった。闇やムードこそを映画化しようとした。プロデューサーも結構個性的だったのね。高橋源一郎が唱えた「正しいからダメ」「正しくないから良い」って理論は、一部は同意するが、それはそう見せられてるだけではないかとも思った。登場人物が全員クリエーターというのは「=生産性がない」ということで、パンデミックを受けてのことだったのね。

耕治人「一条の光・天井から降る哀しい音」を取り上げる。老々介護で話題になった小説だが、これをあらためて今、読みなおすというのは確かに面白いな。ちょっと本人たちの味が強すぎるが、出来事を抜き出し、時代を経ることで見えてくるものがあるのかもしれない。伊藤比呂美の話から出てきた私小説とエッセイの違いは、たしかにそうだな。文壇の存在と私小説という存在。ただ、文壇がなくなったからこそ産まれてくる「自称した私小説」みたいなものはありうるのかも。でも私小説にあんまり良いイメージがないので、そんな風になるかはわからん。

  • 文学の世界「金子みすゞの宇宙」第3回 みすゞ探しの始まり 2023/10/19 放送

矢崎節夫氏が、童謡に目覚め、金子みすゞの詩に出会ったもののまったく手がかりが掴めず、まったくの偶然から先輩の童謡作家たちと交流する中で金子みすゞという存在自体を認識して行くおはなし。
若い頃に詩に出会い、童謡に感動し、まったく手がかりのない中で数奇な運命で金子みすゞに繋がっていく様子がとても感動的だった。いろんな講演会で話しているんだろうけど、本当に引き込まれる話だ。

  • 文学の世界「金子みすゞの宇宙」第4回 全作品と出会う 2023/10/26 放送

前回に引き続き、矢崎節夫氏の金子みすゞを探す旅のお話。こちらも数奇な運命から金子みすゞの弟に行き当たり、全作品を託されるところまで。全作品を受け取り、夜も寝られず、家族にまで塁が及んでいる描写には、矢崎節夫氏にとって金子みすゞ作品がどれだけ大事だったのかがまざまざと現れていた。聞きながら心をはっと掴まれ、涙することまで出た。このシリーズは凄いな。

日暮里、田端での被災の状況。東京帝国図書館が燃えた話から、アレクサンドリア図書館が燃えた話に繋がるのは文学者らしい。その後の再度の図書の収蔵についても説明あり。作家が集まった田端の話。芥川龍之介が書いた震災前後の話。芥川龍之介は被災の状況を目に焼き付けてたのね。その目で被災後の共同体の様子も好意的に描いている。芥川も、渋沢栄一の天嶮説への批判もしっかりしている。震災を見て、人が死ぬことも支え合う共同体の美しさも見た芥川。その後自死を選ぶんだが、どれくらい影響があったのか。室生犀星の、被害は少ないものの、家族を実家に避難させるかさせないかという話は、その時の状況や、周りの人たちも同じように動いているっていうのがわかって興味深い。

麹町は被害が少なかったが、与謝野晶子はその大作「新訳源氏物語」が燃えてしまったの。本当に厳しい。その後14年かけて作り直しているんだが、そのなかで震災で燃えなかった原稿を見つけて付け加えた話など。泉鏡花の「露宿」について石井正己氏は災害文学の極致と呼んでるので、今度読んでみよう。解説を聞く限り、構成等も素晴らしいが、ここで紹介された個別の描写もかなり良さげ。岡本綺堂は蔵書・日記のすべてを失った。岡本綺堂は母があった安政の大地震の話から、地震はもとよりかなり嫌いでトラウマ化したなかでの関東大震災だったのね。岡本綺堂の記述のなかに、現代で言う震災関連死の危険性を訴えているというのは、その視点の細やかさからだからだろう。

横浜は、地震の被害で言えば東京よりもずっとひどかったのね。自警団とか在郷軍人団での二次被害もかなりひどかったとは聞いている。でも作家はあまり横浜のことを書いていない、と。西川勉の記載では、助けがあまりなかったことにより、商店の略奪や戒厳令下での混乱がかなりひどかったということがわかると。東京とはかなり違うのねえ。ダダイストの人が被害を受けるのをかなり心配してたり、治安自体がかなり悪い。横浜では中国人の被害がかなり多い。横浜にはフランス人も多く、ポール・クローデルは領事の死亡の状況などを描写。長女は津波にさらわれたものの、なんとか生き延びたとのこと。国際港としての横浜の存在も危惧されたが、その後のクローデルの奮戦で横浜の復興もなる、と。横浜で救助活動および民間の避難場所を提供。病院と託児所を設置し、そこでの震災後の助け合う共同体に感動をした様子を描写している。山崎紫紅はバラックの避難所で書いた文章が残っていると。資産を失い、長女一家も失う。東京の災害は火事からで、横浜の災害は地震からであると、事態を正確に把握している。あと、虐殺や略奪について、自らに顧みて反省しているのは特筆されるべきなんだろうな。最後に、解説者である石井正己自身の話。自身には関東大震災で亡くなった親族はいないと思っていたが、妻方の菩提寺を訪ねたところそれらしき墓を見つけ、話を聞くと関東大震災で亡くなったとのこと。話を聞いて初めて知る近しい人の被害というものがあるので、ぜひ周りに話を聞いて(自分ごとにして)ということ。